第3回フォーラムのゲスト(里都ナビゲーター)、NPO・生活工房「つばさ・游」理事長の高橋優子さん、株式会社OKUTAの玉井多映子さんより、小川町の取り組みと「こめまめプロジェクト」の概要についてお話をいただきました。
■小川町での活動の原点
<生活工房 つばさ・游 高橋さんより>
小川町は、池袋駅から電車で70分ほどの場所にある町です。周囲を山に囲まれ、里地里山の風景が広がるところです。古くから地域資源を生かし、建具、絹、和紙が伝統産業として栄えていました。
私が小川町に引っ越してきたのは、1989年のことです。子供を育てるのによい空気、よい水があると思いました。小川町で家を買い骨をうずめる覚悟をした時の条件は、「自分が自分らしく生きれる町」として小川町は「自分が埋もれないでいられる」と思える適度な人口で、文化があり、歴史があり、人との出会いがあるなど、いくつかの条件が揃っていました。
小川町に住むことを決めた後、私は「自分はこの町で自分らしく生きていくためにいったい何ができるか」を考えました。それが今の活動をスタートするきっかけでした。
小川町に住み4年半ほどたったころ、「自分は小川町のことを知らないな」と感じました。役場にいって情報を集めてみましたが、表面的な情報しか集まりません。私が欲しい情報は、「どこにどんな人が住んでいて、どんな活動をしていて、どんな考えをもっているか」でした。
そこで、女性ならではの暮らしの目線から、そのような情報を集める活動を始めました。その時に作ったミニコミ紙が「小川町マップ」です。第一回は「豆腐屋さんマップ」でした。この小川町マップをつくるため、任意団体「生活工房 つばさ・游」を立ち上げました。
「小川町マップ」は年に4回発行しており、現在も発行を続けています。(現在は年1回)取材を続けていく中で情報が集まりだすと、「点」だった情報が「線」になります。そして「線」が集まり「面」になっていきます。そこで私たちは、2009年に生活工房 「つばさ・游」をNPO法人化し、「①顔と顔の見える相互扶助の市民共生ネットワークの仕組みづくり」「②小川町の里地里山環境が生み出す豊かな地域資源の活用による、食とエネルギーの自給モデルの構築」「③町づくり・人づくりの観点からの研究提案」「④普通の市民が普通の価格で有機農産物が買える仕組み作り」に向け本格的な活動を開始しました。
小川町の有機農家と主婦が協働する日替わりシェフレストラン 『べりカフェつばさ・游』の営業も、その活動の1つです。
■こめまめプロジェクトの開始
さて、リーマンショックがあった年、小川町で作った有機米が1.8トン売れ残りました。そのことを、霜里農場見学会で小川町に来られていた株式会社OKUTAの山本社長にお話しすると、「すべて当社で買い取ります」とのご返事をいただきました。
山本さんは、賛同する社員にお米を配り、そのお米代を社員の給料から天引きするという仕組みをつくりました。これが「こめまめプロジェクト」がスタートした経緯です。
<株式会社OKUTA 玉井さんより>
株式会社OKUTAは、今年で設立20周年をむかえるリフォーム会社です。2002年から、化学物質を極力つかわないリフォームに転換し、環境負荷を減らす取り組みを企業ぐるみで進めています。
「こめまめプロジェクト」では、小川町の有機農家さんに作っていただいたお米を、OKUTAが1年間分「全量を買い取る」ことを取り決めています。費用は一括即金でお支払いし、「農家さんの元気がでる価格」で買い取ることを原則としています。
「5kg=2600円」を1つのパッケージとし、希望する社員に希望する口数だけ小川町から送っていただいています。
「こめまめプロジェクト」を推進する意義は、私たちが有機農家さんのお米を買うことで、地域の環境を守り、OKUTA社員の『食』と『職』を守り、「100年経営」を実践することです。
私たちは「石油がなくなっても続けていける農業」を支援していきたいと考えています。そして農薬や肥料がなくても農業を続けていくことができる「有機農業」を支援していくことを決めました。
私たちは小川町の里山の保全も行っています。山を守ることで、田んぼに流れてくる水を守ることができるからです。
これら小川町との取り組みは、田舎のない社員に「第二の故郷」をつくるという役割もありました。
さて、この「こめまめプロジェクト」ですが、実はプロジェクトがスタートした翌月にトラブルが起こりました。有機のお米を受け取った社員からクレームが入ったのです。消費者である社員にとっては、「いつでも品質が同じなのはあたりまえ」でした。しかし届いたお米は「先月とは違う色」をしていました。
農家さんからすれば「お米は農産物。同じものはできない」との認識を持っています。トラブルは、この2者の価値観の違いから起こったものでした。
このトラブル解消のため、クレームを言ってきた社員と農家さんとで直接話をしてもらうことにしました。しかし価値観の違う者同士、トラブルはさらに大きくなってしまいました。
お米に虫がわくことも、両者のトラブルの原因になっていました。これらの問題解決のため、高橋さんに間に入っていただき、双方の通訳者としてコミュニケーションギャップを埋めていただきました。
◆高橋さんより
私が行ったのは、農家さんの気持ちや農業の現場の状況を、社員の皆さんにお伝えすること。そして、消費者の気持ちを農家さんにお伝えし、理解していただくことでした。
そのようなことを少しずつ行うことでお互いの理解が深まり、課題解決のための取り組みがはじまっていきました。届くお米の色が違う点は、間に精米屋さんに入っていただき、お米の品質をそろえることで対応しました。虫の問題については、お米は「生鮮食料品」であることを社員の皆さんにわかっていただき、冷蔵庫で保管をしていただくようお願いをしました。
このようなコミュニケーションギャップを解消するために、「双方の顔が見える関係づくり」にも少しずつ取り組んでいきました。昨年は、OKUTAの皆さんに小川町に来ていただき、お米つくりを体験していただきました。
このような活動により、農家さんに変化が起こりました。顔の見える関係ができますと「美味しいお米を食べてもらいたい」と考えるようになります。美味しいお米を作るためには「土」が重要です。そこで農家さんの間で「土壌分析」が行われ、学習会が始まりました。今までなかった動きです。
◆玉井さんより
OKUTAの社員にも様々な変化が起こりました。本社屋上にあったハーブ園を拡張し、畑をつくり、社員がそこで農作業を行うようになりました。
昨年の3月11日以降、スーパーの棚から食品が消える中、3月17日には小川町からお米が届きました。これは社員に大きな安心感を与えました。「お米の価格が高い」と言っていた社員も、「安心感を思えば高くない」と考えるようになりました。
また、休日にまるで自分の故郷にかえるように小川町に足を運ぶ社員が増えていきました。
昨年、田植えに参加した社員やその家族は50人にもなりました。稲刈りや収穫祭も行いました。それらは社員の家族間のコミュニケーションにとっても、よい影響を及ぼしました。
◆高橋さん
生産者である農家さんと消費者であるOKUTAの方々との交流会も行いました。「消費者と直接話をする」、それは農家さんにとって初めての体験でした。この交流会によって、双方の関係性はさらに深いものになりました。
このようなOKUTAさんとの交流は、農家さんにとって「自分達の農業の意義を再確認する」きっかけにもなりました。
小川町では、地域の有機農業を支えるお店などもたくさんあります。マルシェ、レストラン、地ビール、とうふ屋さんなど。地域の有機農家さんを、地域の消費者やOKUTAさんのような企業が支えていく。このようなモデルづくりを小川町では進めています。
この「有機を支える仕組み」により、農薬を使わず、生態系が守られ、安心な空気・安心な水が守られます。そのことにより再生産可能な、持続可能な社会が作られていくと私は考えています。
「地域の資源から得られる恵み」を皆で分け合い、関係者それぞれの利益は小さくとも大きな安心が得られる暮らし(小利大安)を目指していきたいと思っています。
第3回の里都づくりフォーラムでは、ゲストとしてNPO・生活工房「つばさ・游」理事長の高橋優子(たかはし ゆうこ)さんをお招きし、埼玉県小川町のご紹介をしたいと思います。
2010年農林水産祭むらづくり部門で、最高賞の天皇杯を受賞した小川町。
地元の有機農家がつくったお米を、地元企業が買い取る日本初の取り組み(企業CSA:Community Supported Agriculture)は、都市部と農家の新しい関係づくりとして注目を集めています。
この「企業CSA」のマネージメントコーディネートされている高橋さんより、企業と農村が連携することの意義や留意点などについてお話をうかがう予定です。
(当日は、この企業CSAに参加した企業の方からもお話をお聞きする予定です。)
小川町にいらっしゃるカリスマ有機農業家・金子美登さんとともに、顔と顔の見える有機的な市民のネットワークによる「食」と「エネルギー」の地域自給モデルを目指してと活動されている高橋さん。
きっと学びや気づきの多い、ワクワクするひと時になると思います。
ぜひご参加ください!
■ゲスト(里都ナビゲーター):高橋優子(たかはし ゆうこ)さん
※生活工房「つばさ・游」 http://tubasa-u.com/
■日時:2012年3月13日(火)19:00-21:30ごろ
※開場は18:30を予定しております。
■場所:日比谷図書文化館/スタジオプラス(小ホール)
http://hibiyal.jp/hibiya/access.html
※注意点:公共交通機関でお越しください
日比谷図書文化館へのお問い合わせはご遠慮下さい
■定員:50名(先着順とさせていただきます)
■参加費:2,000円 (実費分としていただきます)
※お土産付き
※参加費は当日会場にてお支払いください。
■主催:里都(さと)プロジェクト
■申込み方法:以下のフォームからご登録ください。
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